◆マティス美術館

 温暖な地中海に面したフランス・ニースの町。小高い丘の上へバスで登って行った。そこはローマ時代に栄えた町・シイミエの公園。そこにひと際目立つ赤壁にだまし絵の窓で装飾された館があった。それは17世紀のイタリアジェノア風のマティス美術館であった。

  ニースで没した巨匠アンリ・マティスの作品を展示するこの美術館は、特別及び常設展示場、教育アトリエ、デッサン保管室、オーディオホール、図書文献室などが設けられていた。青空の見える吹き抜け階段から入口に入ると、フランス国内にあるマティスの最も重要な作品の一つ「花と果実」が展示されている。これは躍動感に満ちた水彩の切り抜き絵で、カルフォルニア風ヴィラのホールを飾っていた。

 更にマティス個人所蔵品である赤い大理石のテーブル、それにカラフルな安楽椅子も何げなく置かれているのが似合っていた。これら表情豊かな色彩の息づく作品の数々を見ていると、マティスの単純化された線や色使いが語ってくるように思える。

  アンリ・マティス(1869〜1954)20世紀を代表するフランス画家のひとり。91年に画家を志してパリに出てギュスターヴ・モローなどの下で美術を学ぶ。その後、新印象主義の影響を受けながら、強烈な色彩を併置するフォーヴ(野獣派)のスタイルを生み出す。そして人生の最終章であるニースに活動拠点を移すと、光と空間の単純化と純粋化を追求した結果、"色彩でデッサンする"切り紙絵の世界に到る。マティスにとってニースは居心地の良い楽園であったのかも知れない。

撮影2009年冬