◆ロシア上空にて

 数時間経っても同じ夕日の光景であった。関西国際空港からパリに向かう空路は、新潟県から日本海を経てロシア上空に入って行った。機内から見える赤く染まった美しい夕日は、1時間経っても2時間3時間経っても同じ光景が続いていた。不思議な体験である。それは太陽と同じ方向に進んでいるためによるものだった。

 雲間から時折下界が見えることがある。真っ白な大地に河筋が蛇行しているのが見える。ロシアは広い。12時間のフライの内、半分以上はロシア上空であった。機外から眼下を見下ろしながら、私の子供の頃を思い浮かべていた。 旧ソ連は日本から見れば、黒いベールに覆われた鎖国の国であった。アメリカに並ぶ世界の超大国。社会主義政策を持つソ連からは独自の宇宙開発、核兵器の保有、豊富な資源力、世界一の広い国土、時折ニュースが漏れてくる。しかし自由な報道は全くなく、制限された情報しか入ってこない。

 日本国民が持つ旧ソ連の印象は、一般的に良い感情はなかった。敵か味方かと問えば敵と答える人がほとんど。しかし世界をアッと驚かすビッグニュースが入ってきた。1989年ベルリンの壁崩壊である。それは東西の冷戦終結を告げるものであり、歴史に残る世界平和の大きな一歩を踏み出したように思えた。

 広い大宇宙の中で私達は「地球家族」なのだ。喧嘩をしている場合ではない。戦争などもっての外だ。家族愛がある限り平和は必ず築けると信ずる。 IMG_1860.JPG不思議なことに機外は光が一面に輝き渡り、夕日から昼間に逆戻りしていた。北欧の冬は殆どが雲海で埋め尽くされていた。しかしこの雲の下には温かい家庭があり、素晴らしい家族がいるに違いない。 

撮影2009年冬