◆囲炉裏端の交流

 囲炉裏の火は煙を立ち上らせながら部屋中を覆っていた。秋も終わりの頃になるとこのあたりは一足早く冬を迎える。外は初雪で薄っすらとした雪化粧で美しい。生まれて初めて囲炉裏のある宿に泊まった。

  ここは長野県の「大妻籠」。中山道の宿場と宿場の途中にある、ひっそりと佇む脇役的存在であるような宿場であった。歴史を感ずる数軒の旅籠が並んでいた。その中の「まるや」にお世話になった。ここは今から250年前の寛永元年から創業しているというから驚きである。現在の建物も築130年を超えるもので、まるで文化遺産の中にいるような、いささか場違いの処に来てしまった奇妙な気分であった。

 予約のお客が入ってきた。20代の白人女性が二人(イギリス人とオランダ人)。しかも何れも映画に出てくるほどの美人なのだ。如何してこんな古い宿を選んだのだろうか。日本の古き伝統文化を肌で感じたいとのことであった。もう一人は芦屋に住むイケ面の男一人旅。さらに行商のお爺さんが一人。聞けば私が住んでいる街に過去30年間も住んでいたとか。

 不思議な巡り合わせの客同士で夕食が始まった。少しぎこちないもののご馳走を前に気分はリラックス。囲炉裏のある部屋に場所を移して歓談が始まった。白人女性は熱燗を注文しすっかり楽しんでいる。主人は見事な手捌きでお餅を焼いて皆にご馳走してくれた。大きな声で笑い声が響く。小さな旅籠にこんな世界が現実にある。一期一会の素晴らしい思い出をお土産に頂いたように思った。旅人に感謝だ。

2008年秋