◆伊賀上野城の遺産

 街の北側の丘には白亜三層の勇壮な城が見えていた。四方を山に囲まれた小さな盆地に、忍者の里として知られる三重県上野市にある伊賀上野城である。

  この町は城を背にして碁盤状に市街が開けた城下町でもある。そもそもこの街は伊賀全土を焦土と化した「天正伊賀の乱」の後、奈良は大和郡山より赴任した筒井定次により城郭が築かれた。そして徳川家康より「津は平城なり。当座の休憩所までと思うべし。伊賀は秘蔵の国、上野は要害の地、根拠とすべし」と秘命を受け、四国は伊予から移ってきた藤堂高虎により、城の大改修に着手される。しかし竣工直前に暴風雨のため天守が倒壊。このため「伊賀の上野は天守のない城下町」として、それから約300年が経過した。

 時は移り1935(昭和10)年になって城郭は再建された。天守閣には戦乱のためではなく、地元の貴重な文化、教育、民俗資料等の展示場となっている。そして城内には市役所をはじめ、芭蕉翁記念館、伊賀流忍者博物館、小中高の各学校等の施設が並んでいる。戦争のために建てられたこの巨大な城も、今では市民にとって森に囲まれた静かな場所に、そして心と身体の癒しを与える掛けがいのない貴重な空間になっている。

撮影2008年秋