◆萬翠荘の美しさ

 フランスからそっくりそのまま移築されたような、立派な洋風の建物が建っていた。それは松山城の山の麓にあり、緑いっぱいに囲まれた静かな場所にあった。「萬翠荘(ばんすいそう)」と呼ばれるこの建物は、実に美しい色彩と豪華さを感じ取れた。

ここは1936(大正11)年、旧松山藩主であった松平家第15代当主久松定謨(さだこと)氏が、別邸として建築したものである。定謨氏は駐郡武官としてフランス生活が長かったこともあってか、フランス風の建物を欧米外遊帰朝直後の建築家・木子七郎に設計建築させている。

 鉄筋コンクリート造り地上3階、地下1階で、外壁はタイル、屋根の頂部は銅版、その下の急勾配の部分は天然スレートで葺かれている。また外観の至るところに豪華な彫刻が施されており、一層品格を感じ取れることができる。

当時ここはこの地域最高の社交場として利用され、各界の名士が集まるなどの役割を果たした。更に皇族の来県の際にも立ち寄られた。戦後は米将校宿舎、家庭裁判所、郷土芸術館などに変遷し、1979(昭和54)年に現在の愛媛県立美術館分館・郷土美術館となっている。

 狭い土地ゆえに高層ビルが建ち並ぶ日本。これからもその傾向は一層進んでいくに違いない。過去の古い建物は壊され、近代的で便利・快適な建物へ生まれ変わろうとしている。しかし大切にしなければ、残して置かなければいけない歴史もたくさんあるように思う。その一つが70年を越す貴重な建築物「萬翠荘」ではないかと思う。

撮影2007年夏