◆豊かな瀬戸内の海

 穏やかな気温、恵まれた土地、豊かな海、優雅な生活、こんな言葉が並ぶと、そこはまるで楽園のように思えてくる。人間は環境によって人生も左右すると言っても過言ではない。そこに住む人達の顔を見れば分かる。そして話をしてみれば人の良さが伝わってくる。そんな長閑な漁村に出会った。

 そこは瀬戸内海の東の端に位置する、兵庫県姫路市の海岸線であった。一級河川の揖保川、夢前川などの河口に吐き出していく土砂は、長い年月を掛けて豊かな土地を育んだ。と同時に養分を含んだ河口付近は、豊かな海の恵みの宝庫となっていた。

 そのなかに網干(あぼし)という地名があった。その由来は漁師が漁を休み、浜で網を干していた風景から来たとのこと。私の友人の一人がここに住んでいて、実に面白い名前であったので、今でも忘れ得ない人物となっている。その名は「釣井」さん。網干の釣井さんである。如何にもこの地域を代表するかのような名前であった。これらの川の上流からは、高瀬舟で多くの品が運ばれて来た。薪炭、鉄、米穀、それに龍野の醤油などがあり、上方への中継の役割を果たしていた。

 麗かな春の太陽をいっぱい受け、サギが波打ち際でジーと餌が来るのを待っていた。そして浜辺では大きな網が干されていた。昔から何も変わらない長閑な風景であった。漁師さんたちにとって目の前の豊かな海は、生活の糧であり仕事場でもある。まさにそこは無限の宝庫として見えるであろう。美しい海に感謝だ。

撮影2007年春