◆竹久夢二の女性像

 同じ女性を見ても男性から見る女性像と、女性から女性を見る視点では自ずと違ってくるようだ。往々にして男性は外見を通して女性の美を評価しがちである。それに比べて女性同士の場合は、美しさもさることながら、その奧底にある性格や内面を見抜いて評価することが多い。

 竹久夢二は男から見た女性の美しさを、独特の表現力で描き続けた大正浪漫を代表する画家であった。そして詩、歌謡、童話なども創作している。更には浴衣などのデザインも手掛けるなど、多岐にわたって活躍した人物なのだ。 夢二の生家を訪ねたのは、春の穏やかな日差しが美しい日であった。そこは岡山県瀬戸内市邑久町にある、土塀と竹林の山に囲まれた、茅葺屋根の田舎家であった。彼は波乱万丈の一生であった。絵を描き、詩を読み、多くの女性と恋をした。そして旅を通して美しい女性と出会い巡り会った。

 私の最も好きな絵の一つに「立田姫」1931(昭和6)年がある。この年初めて夢二はアメリカ、欧州を訪問している。日本を紹介する言葉に「富士山と芸者」がある。そのことを意識してか、この絵のバックには富士山があり、そして美しい芸者が描かれていた。その芸者の顔の表情は艶かしく、優雅な姿は実に魅力的であった。また彼の代表作の一つでもある「黒船屋」も好きだ。黒猫を抱く女性の曲線美が、見る人にたまらなくアピールしてくる。

 夢二のたくさんの作品を見たが、美人画に登場する女性は華やかな姿をしているものの、何故か顔の表情は寂しそうに見えてくる。それは彼の心の現われなのかも知れない。

撮影2007年春