◆瀬戸内海の思い出 

 海に浮かぶ島々が霞んで見えた。麗かな春の昼下がりであった。眩しく輝く海面には釣り船が浮かんでいた。長閑な瀬戸内の光景である。そこは「春の海」という題名の、まるで一幅の絵を見ているような思いに駆られた。

 兵庫県境に近い岡山県備前市日生港(ひなせこう)付近でのこと。ここに立って思い出すことは、何時からか夏休みには一泊二日で小旅行をすることが、我が家の伝統となっていた。日生港より船で15分ほど走った小島を訪ねたことがある。今から十数年前のことである。小さな艀に降りると軽自動車が迎えに来てくれていた。狭い迷路のような山道を、頂上まで登りきった所に目指す民宿はあった。

 窓から見える瀬戸内海の景色は雄大であった。遠くは小豆島をはじめ、いくつかの島々の姿は緑に輝き、海の青さと融合して暫し見惚れてしまった。恐らく家族揃っての夏休み、リラックスした気分がそう感じさせたのであろう。楽しみの料理は何といっても海の幸であろう。大きなヒラメの活き作りをはじめ、鯛にカニ、シャコに貝類。私にとっては至福のひと時となった。

 更に嬉しいことは民宿を営む初老夫婦の持て成しであった。大阪より脱サラでここに移り住んでこられたとのこと。心通う人懐っこさは夜中まで語り明かしてしまった。忘れられない旅の思い出となった。今もお元気で益々ご活躍のことと祈っている。 島国「日本」は海とともに生きてきたといっても過言ではない。海の幸の豊かさに恵まれて、日本の歴史はあるように思う。ここ瀬戸内海の海も同じである。

撮影2007年春