◆恩賜箱根公園

 庭に出てみると秀麗な富士山が眺望できた。眼下には清澄な芦ノ湖が大きな広がりを見せてくれる。そして湖の周りを囲む箱根外輪山。神奈川県立箱根公園からの雄大な景色は、風光明媚なこの辺り一帯の中でも絶景の場所にあった。

 と言うのもここは1886(明治19)年、宮内省によって皇族の避暑地として、また外国からの賓客の対応のために箱根離宮が完成している。木造二階建て西洋館と木造平屋の日本館。その他、官舎、兵舎も。ここには皇太子時代の大正天皇、そして昭和天皇はじめ皇族・賓客が数多く訪れている。

 時代は絶えず変化の連続だ。この素晴らしい建物も残念なことに1923(大正12)年の関東大震災。1930(昭和5)年の北伊豆地震の自然災害で倒壊している。そして1946(昭和21)年に神奈川県に下賜されて、一般公開されることとなったのだ。

 よく手入れされた庭は実に見事であった。更に園内の中心には「湖畔展望館」があり、重厚な二階建て洋館からは、遠く箱根が一望できた。館内に入ると離宮時代の歴史を物語る、貴重な資料の数々が展示されていた。日本の歴史の一部分を見る思いがした。

 マメザクラ、オオシマザクラ、ツツジ、ヤマユリ、そして秋の紅葉。四季折々の美しさを、園内いっぱいに楽しませてくれる。近くに旧東海道杉並木の名所もあるが、園内にも大きな杉林があった。私には別荘もなければ、避暑のための旅行もなかった。生きるだけで精一杯の人生であった。

撮影2006年秋