◆富山城址の香り

 北は日本海の富山湾、東は常願寺川、西には神通川や呉羽丘陵、そして南は田園広がる富山平野のほぼ中央に位置している。それが自然に恵まれ、飛騨と北陸道を結ぶ交通の要衝の地・富山市だ。その中心地に歴史の威厳を誇る富山城はあった。

 現在の天守閣は第二次世界大戦後の、1954(昭和29)年に建築されたものである。現在ここには城址公園として、郷土博物館と美術館があり、広く市民に開放されている。また天守は国の登録有形文化財となっている。

 富山城の歴史は古く、1543(天文12)年に越中守護代の神保長職が、家臣の水越勝重に命じて築城したとされている。地理的に重要な場所だけに、上杉謙信、織田信長、豊臣秀吉、前田利長等の勢力の争奪の的となり、抗争が繰り返されてきた。

 最後は加賀藩三代藩主前田利常が、次男利次に10万石を与えて分家させ、富山藩が成立した。時に1639(寛永16)年のことであり、以降、前田氏13代の居城として明治維新まで延々として続いた。

 市内の中心地であっても、城内にある公園に入って行くと、急に静けさと遠い歴史の空気が、香りと共に流れてくるのを感じた。麗かな春を迎えた富山市は、今が一年中で最も美しく素晴らしい季節だ。松川沿いの美しい桜並木は終わり、町も公園も一斉に様々な花が咲き誇っていた。遠くに見える立山連峰の頂には、白く輝く雪をいっぱい被っているのが、街中の何処からでも確認することが出来た。ここにはまた是非とも来てみたものだと、願いを込めつつ別れを惜しんだ。

撮影2005年春