◆秘境・かずら橋

 子供がまだ小さい頃は、夏休みともなれば家族揃って何処かに旅行するなり、海水浴・プールに出かけなければ収まりがつかない。今から10年程前のことであろうか、四国・徳島県の吉野川沿いにある山間に「まんなか」というホテルに泊まった。目的は何といっても「かずら橋」を渡ることであった。

 このかずら橋は日本三奇橋の一つとして、1955(昭和30)年に国の重要民族文化財に指定されている。長さ45m、幅2m、水面からの高さ14mのシラクチカズラで作られた吊り橋である。このシラクチカズラとは約1000m以上の山に自生しており、火であぶると自在に変形する性質を持っている。このカズラを見事に編んで出来たのがかずら橋である。

 谷底を隔てて山と山とを結ぶ吊り橋。カズラというこの辺り特有の地域性を巧みに利用した、秘境ならではの生活の知恵であろう。この橋が作られて1000年の歴史をさかのぼることが出来る。その間には平氏が源氏から逃れるために、いつでも橋を切り落とし、追っ手を食い止める戦略上のものでもあった。

 橋を渡るにはあまりにも足元が不安定であった。隙間から谷底に流れる激流が目に入る。もしここで靴でも脱げようものなら下まで落ち、川に流されて二度と戻ってくることはないであろう。しかし身体がスポッとはまり落ちることは100%ありえない。恐る恐る渡っていく吊り橋は、不気味な揺れを感じる。年間30万人を越える観光客にとっては、そんな秘境ならではのスリリングな体験が魅力なのであろう。ちなみに私だけが渡らなかったことを付け加えておきます。その理由は? とても言えません。

撮影2006年秋