◆平家の落人

 

 切り立った山の中腹に幾つかの民家を見つけた。下から見ていると今にも落ちてきそうな危険極まりない場所であった。ここは四国・徳島県の吉野川の支流で、山奥深い祖谷川に沿った険しい山間部であった。人間が住むにはあまりにも過酷で、厳しい環境であるように思われた。

 このような場所に住むにはそれなりの理由があるのだろう。林業、農業をはじめ、様々な職業に従事されていると考えられる。大自然の中で生きる豊かさと、都会にはない不便さも兼ね備えているようにも思われる。

 この辺りには平家の落人伝説が残っている。1185年の源平合戦で屋島(香川県高松市)の戦いで敗れた平家。その中の内平国盛一行100人余は、安徳天皇を守って平家の再興を願いつつ、人里離れた祖谷川渓谷近辺に住み着いた。慣れない生活は想像を絶する苦労があったものと思われる。


 かずら橋のすぐ近くに「琵琶の滝」があった。吉野川の支流となる祖谷川に注ぎ込んでいる。高さ50m程の垂直に近い岩盤を滑り落ちる美しい滝だ。近くによるとマイナスイオンが発生しているのであろう、爽やかな風が全身を潤してくれる。この滝の下で平家の落人は、都に思いを馳せ、別れ別れとなった家族を偲び、琵琶を奏でて慰め合ったとのこと。暫くここに立っていると切ない琵琶の音が、滝の音と重なり合って聞こえてくるように感じた。

撮影2006年秋