◆伝統の歌舞伎

 ついうたた寝をしてしまった。自分の寝息が聞こえると同時に、隣に座っていた妻の肘がノックしてくる。それが二度ほど続いた。京都市東山区にある南座で、初めて歌舞伎を鑑賞した時のことであった。今から十数年前のことである。

 私は熱狂的な「宝塚歌劇」のファンがいることを知っている。同じようにテレビで歌舞伎の観劇を見ることもある。そこには年齢層は違っても、多くの根強いファンを魅了し続けている伝統芸術があった。

 南座の正面入口に立って建物を見上げると、由緒ある櫓を備えた桃山風破風造りの豪華な劇場であった。それを見ただけで日本伝統の芸術が、醸し出されているように思えた。そして大きな赤い提灯には、「勘亭流」と呼ばれる歌舞伎独特の文字で「南座」と書かれてあり、一層雰囲気を盛り上げていた。大きな看板に描かれた歌舞伎の絵。勘亭流の文字。ここにいると江戸時代にタイムスリップしたような、雰囲気が漂っていた。

 この南座は歌舞伎発祥に地であり、江戸時代元和年間(1615〜1623)年にスタートしている。その後建物は何度か改築、改修されてきている。この歌舞伎は年に3回ほど公演されている。特に歳末の吉例顔見世興行は、京都の伝統行事の一つとして、戦時中であっても一度も途絶えることなく続けられている。 公演中、妻に2度ほど起こされたものの、必至で日本の伝統芸能を理解しようと努力した。不思議なことに暫くすると、目も耳も慣れてきたのか、少しずつ内容が理解できるようになった。それは歓びに変わっていった。長時間の公演であったが、人生の素晴らしい経験となった。

撮影2006年夏