◆名門・奈良ホテル

 それは瓦屋根と桃山御殿風総桧造り二階建ての、見事な木造建築であった。ここは国内外の一流のお客をはじめ、この建物の雰囲気が好きな人達が、好んで宿泊をする人気のホテルである。そこからは興福寺・五重の塔、若草山、東大寺大仏殿などが一望できる高台に名門・奈良ホテルはあった。

 1909(明治42)年に創業した奈良ホテルは、一見周りの雰囲気からお寺のように見える建物であった。しかし外見の豪華さからも、日本の迎賓館をイメージする素晴らしいものであった。100年近くも伝統と歴史を護り通してこられたのだ。

 一歩なかに入ると、そこは和風には違いないのだが、実に天井が高く、心にゆとりの空間を与えてくれる。館内の随所に明治、大正時代の華やかな文化の香りが漂ってくる。これまで美術館で何度も見たことのある上村松園の日本画「花嫁」をはじめ、数々の名画を味わうことも出来る。鉄筋コンクリート建の、箱形シティーホテルに慣れている我われにとって、ここは古都・奈良を大いにイメージアップさせ楽しませてくれる。更に素晴らしいのは約1万坪におよぶ大庭園である。ここは文化財指定の旧大乗院庭園に連なっている。ゆっくりと心安らかに散歩をするのも、大いに気分転換となるように思われた。

 ここには随分前になるが、団体で昼食会のため訪ねたことを思い出す。その時の好印象が今も忘れられないで残っている。奈良のこの辺りは、世界遺産に登録されている地域である。この奈良ホテルは日本の素晴らしい伝統文化の宝であり、世界の宝でもあるように思えてならない。

撮影2006年夏