◆万葉に思いを馳せる

 これは今から1300年前の万葉集の話だ。それは約4500首の歌に託された当時の天皇、貴族だけでなく、兵士や農民に至る、幅広い人達で構成された日本最古の歌集である。そこには自然の美しさ、旅情、恋、そして喜び、悲しみ、嘆き等、人間の心が歌われている。更には四季を巡る150種類を越える、植物への思いなどが歌われていた。

 太陽が輝き緑いっぱいの草木の香りが、私の目から鼻から口から、そして身体の全てから入ってくるように思われる季節であった。この辺りは実に長閑な田園地帯であった。そんな中に「奈良県立万葉文化館」はあった。2001(平成13)年9月にオープンした新しい建物であった。県立とはいえ、駐車場から庭園に至るまで見事に整備され、館内に入ってからは更に驚きであった。近代的建築はこれまで見た多くの美術館、博物館の長所を取り入れ、それらを超える素晴らしいものであった。

 展示内容は地域性を生かして、万葉集の時代を中心に様々な企画がなされていた。万葉集の歌をモチーフに、新たに描かれた154点の日本画には感動させられた。面白いことに、この時代に登場する人物の目は切れ長で、全て同じ形をしているように思えた。それは以前にお札で見た聖徳太子も同じであった。さらに万葉の世界を体感できる展示も見事であった。

 万葉集に出てくる歌人のなかでも、柿本人麻呂は450首もありその存在感は群を抜いていた。 「東(ひむがし)の 野に炎(かざろひ)の 立つ見えて かへり見すれば 月傾(かたぶ)きぬ」と。その他山部赤人、額田王等、万葉ロマンの人達に触れた一日であった。

撮影2006年夏