◆嵐山の渡月橋

 嵐山全体がまるで燃えているように見えた。11月末に見た赤や黄色の紅葉は、山一面を覆いつくしており、この秋一番の見頃であった。20年も前に見た感動が今も忘れられない。日本の四季は実に美しい。なかでも自然の移り変わりがはっきりしている京都はその代表である。四季折々の美しさを、最高の表現でわれわれを楽しませてくれる。

 これまで京都には何度も訪ねている。取り分け嵐山は私の好きなスポットの一つだ。というのもこの近くに、落着いた佇まいと美しい庭園を持つ「湯どう屋」がある。私は京都を象徴するかのような、この雰囲気が好きでよく家族、友人を誘ったものだ。 その途中に「渡月橋」はあった。平安時代の初期836年に空海の弟子・道昌が架橋したものといわれている。また渡月橋の名前の由来は、亀山上皇が雲のない夜空に、月がさながら橋を渡るような様子を見て「くまなき月のわたるに似る」と、感想を漏らしたことによるものとされている。

 渡月橋を挟んで、上流が大堰川(おおいがわ)あるいは保津川と呼ばれ、下流は桂川となる。遠くから見ていると、渡月橋は見るからに京都の情緒を感じさせてくれる。というのも時代劇に出てきそうな木造に見えるからだ。私のイメージでは、今にも鞍馬天狗が馬に乗って駆けて行く様子が目に浮かんでくる。そして美しい舞子姿に、お姫様も優雅に歩いている。

 しかし現在の橋は車の往来も激しく、1934(昭和9)年に鉄桁コンクリート製で造られている。たとえ木造でなくても情緒を重んじる京都らしさが、私たちにとっては大きな魅力だ。

撮影2006年夏