◆ 大河・吉野川

 四国のなかを悠々と流れる大河があった。吉野川の河口はまるで四国の大自然の血流が、紀伊水道の大海に流れ込んでいくように見えた。愛媛県西条市石鎚山(1896m)の瓶ヶ森を源とする吉野川は、全長194kmとなる。四国四県全てを流域とする唯一の川である。

 中流には大歩危、小歩危という険しい渓谷もあり、日本の秘境の地域でもあるようだ。そこには「かずら橋」という、蔦のような「かずら」と木材を組み合わせて出来ている橋があった。数年前に訪ねたことがある。多くの観光客が恐る恐る、かずらに?まりながら渡っていく姿は、実にスリリングなものである。勿論足元から隙間を通して見えるのは、大自然の谷底を流れる川である。私には通行料まで払って、渡る気持ちにはとてもなれなかった。

 河畔には様々な文化が発展していった。肥沃な土地は豊富な作物を育て、人々の生活を支えた。こうした恵みの感謝の気持ちの現われなのか、徳島名物「阿波踊り」は、独特の明るく陽気な人柄に伝えられているように思えてならない。私の母方のルーツも阿波であり、明るくのんびりした母であった。

  吉野川は別名「四国三郎」とも呼ばれ、関東・利根川の「板東太郎」、九州・筑後川の「筑紫次郎」と共に、日本を代表する大河川である。そしてまた、これらは暴れ川としれも知られている。川は時にして暴徒化することがある。人間の生命も財産も一瞬にして破壊する力を持っている。台風、雨期のシーズンが最も恐ろしい。自然の驚異の前には人間の力はあまりにも非力でしかない。故に、備えあれば憂い無しの如く、人間の知恵と努力で最善を尽くしておきたい。阪神淡路大震災を経験した被災者よりのメッセージである。それでも私は美しき吉野川が大好きだ。

撮影2005年 冬