◆紫式部と語り合う

 溌剌とした少女のような美しい顔立ちをしていた。平安時代を生きた聡明で健康的な、日本の女性を代表する人物だと思えた。それは福井県越前市(旧武生市)にある、紫式部公園を散歩した時のことであった。すがすがしい朝日に照らされ、黄金に輝いている紫式部の像があった。その前でしばし佇み、心の中で彼女と対話することが出来た。「貴方の人生は幸せだったのですか?」等々。思い出に残る楽しい対話のひと時となった。この公園は平安時代の寝殿造庭園を再現しており、敷地は3000坪ほどの広さがある。大きな池を中心に、真赤な二本の橋が公園の緑のなかで美しく映えていた。

  紫式部は父・藤原為時が越前国司に任ぜられ、現在の越前市で約一年余りを過ごしている。多感な年頃の彼女にとって、ここでの生活は大いなる刺激と、都では経験出来ない貴重な体験をしたように思われる。彼女の人生にとって生涯でただ一度、都を離れて暮らした唯一の場所であった。

  紫式部といえば「源氏物語」の作者であり、「紫式部日記」などが有名である。彼女は今から約1000年前の平安中期の中流貴族の家庭に生まれ、学問優秀な人物であった。しかし家庭的にはあまり恵まれず、生後まもなく母と死別。姉も早世。遅い結婚で一女を儲けるが、二年後に夫と死別している。そうした彼女の悲しみ、苦悩、そして人生の不幸を大いに経験したことにより、人間ドラマ「源氏物語」がリアルに描かれていったのであろう。

 これまで日本の歴史を振り返って見るに、女性の活躍は極めて稀である。紫式部はその魁であり、これからの日本の将来にあって、女性の活躍を大いに期待している。

 撮影2005年 秋