◆ 江ノ島の海

 鎌倉の大仏を見学したあと、歴史を感じる古い旅館街で宿泊した。そこは江ノ島であった。中学3年の修学旅行でのこと。周りには土産売り場がたくさん並んでおり、母親に小物を買ったことを思い出す。大部屋にクラスメイトみんなで寝ることになるのだが、誰か一人が枕を投げるともう収まらない。先生が注意に来るまで枕合戦は続く。楽しい思い出だ。 江ノ島という「島」の名前から海の中にあるものと思いきや、実際は陸続きであった。その昔は引き潮の時のみ洲鼻という砂嘴(さし)が現れて、歩いて渡れたとか。しかし関東大震災で島全体が隆起し、潮に関係なく常に行き来は可能になってしまった。

 海抜60m、周囲約2500m、面積約0.18平方km、ほぼ直角三角形に近い陸繋島が江ノ島である。遠くからでも江ノ島灯台は見ることができる。その屋上は展望台になっていて、360度大パノラマの素晴らしい景色が楽しめる。その周りには植物園もある。1882(明治15)年に英国人のサミュエル・コッキングが旧江ノ島植物園を創設。現在は藤沢市が経営を引き継いでいる。

 この辺りは由比ヶ浜、七里ヶ浜、湘南海岸と、美しい相模湾の海岸線が続いている。目の前は太平洋に面しており、大海は限りなくどこまでも続いているのだ。この辺りは日曜日ともなれば数十万人の人出で賑わう、夏のレジャーのメッカでもある。若者そして家族連れにとっては、海水浴、ヨット、サーフィン、つり等、楽しみがいっぱいだ。

 考えてみたらここ十数年、これらの楽しみを味わったことがない。子供が大きくなると家庭も変化していく。二十歳を過ぎた娘4人に「今日は海水浴にみんなで行こうか」と呼びかけたら、どのような返事が返ってくるか。想像するだけで父親として、何か淋しい思いがしてくる。

撮影2005年 秋