◆日本酒との出会い

 20歳の時に友達の進めもあって、初めてお酒(ビール)を飲んだ。苦い味がしてとても美味しいとは思えなかったが、大人になったのだという自覚を持てた一瞬であった。夏になると汗を掻いたあとで飲む冷えたビールは「これは美味しい!」と、本当に思えるようになった。しかし貧乏学生であった当時は、一回の食事とビール一本の値段が同じで、とても飲める余裕などなかった。毎日欠かさず飲むようになったのは、確か結婚(27歳)前後であったと思う。それもビールしか飲めなかった。

 仕事の関係で、清酒メーカーとの取引が大事な位置を占めるようになった。それまで日本酒を全く飲んだことがない私であった。当然仕事の話題は「日本酒」となる。何度か飲めるように挑戦したが、美味いと思えないのだ。それより豪快に飲めるビールの方が好きであった。それに無理して日本酒を飲むと、覿面に酔ってしまうのだ。気持ちが大きくなり、言葉が足取りが乱れてしまう。その後にやらねばならない風呂にしても、何もかもがパスとなり反省の連続であった。

 「白鶴酒造」の本社が神戸・東灘区にある。日本一の生産量を誇る大手メーカーで、私の大事なお客様だ。営業努力の甲斐あって、本社中枢の人と食事を共にする約束が取れた。本当に嬉しく楽しみであった。しかし日が近づくにつれ気持ちが憂鬱になってくる。先方は日本酒のプロ。私は初心者。最後までしっかり対応が出来るだろうか、全く自信はなかった。当日私は間違いなく2升近く飲んだ。そこにいる誰よりも多く飲んで見せた。そして対応も全てがうまくいったと思えた。

 あくる日、白鶴酒造の社内朝礼で「昨日これまで見たことのない酒の好きな豪傑と一緒だった」と。私の姿を本当に驚いた様子で皆に話したとか。以後少しずつではあるが飲めるように努力を続けている。それは今も続いている。

撮影2004年 冬