◆ 六甲山牧場の牛乳
 神戸牛の美味しさは全国的に有名だ。しかし神戸市内には食肉用の牛舎を見たことがない。牛がいないのに神戸牛とはこれ如何に。私の友人が兵庫県の日本海側に近いところで住んでいる。彼は食肉用の牛を育てている。この但馬地方で誕生した牛を、ブランド名として「神戸牛」とされているようだ。彼は牛の品評会で"日本一"の賞を取ったことがあるとか。一度は神戸で品評会が行われた際、夜遅くに訪ねたことがある。彼は大変に喜んでくれ、トラックの荷台にいた牛をわざわざ追っ払って、そこで焼肉をご馳走してくれた。藁が敷かれてある上で大いに盛り上がった。

 8月の暑い夜である。日本酒を飲んだことのない私は、ビール感覚でのんだ。夜中の2時頃に家に帰ってきた。妻が玄関で「その格好どうしたの!」と驚いている。酔っ払った私はパンツ一丁に革靴をはいて、衣服は手に抱えていたのだ。その日は風呂場で朝方まで寝ていたことを思い出す。苦い経験と、楽しい思い出が忘れられない。

 

 六甲山頂にある牧場にはよく行ったことがある。そこで飲む牛乳はフレッシュで美味しい。近くに牛、馬、羊、ヤギを目の前にして飲むのだから、特別な雰囲気になるのも当然だ。家族で行ったある時のことである。羊が赤ちゃんを産んだ直後を見ることが出来た。子羊は乳白色の膜に覆われていた。母親は一生懸命に口で嘗めながら膜を脱がせている。子羊は立ち上がろうとしては転び、何度もそれを繰り返しつつ、最後にはヨロヨロしながらも立ち上がった。子羊が生きようとする壮絶な挑戦に、周りにいた人も心の中で「頑張れ、頑張れ!」と励ましたに違いない。そして間もなくするとフラフラしながらも一歩一歩、歩き始めたのである。誰からともなく拍手が巻き起こった。歓声まで上がった。それは誕生を祝うものであり、これから逞しく生きてもらいたいとの願いでもあった。 あの時の素晴らしい感動をありがとう!今日も美味しい牛乳を飲み干して車に乗った。近くには馬が静か秋を感じていた。

撮影2004年 秋