◆ 紅葉とベンチ

 美しい紅葉の季節がやってきた。日本各地でそれぞれの素晴らしい紅葉が楽しめる。日本は一年を通して,この時期が最も過ごしやすい気候であるように思う。夏の暑さから開放された9月下旬より、11月下旬頃までの期間を指す。

  小春日和のこの日、秋を代表する紅葉の写真を撮った。木の下にはベンチが置かれてあった。「誰も座ってないベンチに、赤く色付き始めた紅葉」。絵になるアングルであった。このベンチに誰が座れば納まるかを考えてみた。「子供同士」であればどうだろう。恐らくじっと座っていないであろう。「学生」であればどうだろう。ベンチに座って本を読む姿はいいかも知れない。しかし今の若者は活字離れで、テレビ、パソコン、テレビゲームに夢中。画面と遊ぶ人が多いと聞く。では「恋人同士」ではどうだろう。秋の紅葉の下では、深刻な別れ話になりかれないムードがある。

  そうなるとやはり「初老の夫婦」がピッタリとくる。苦労を共に、喜びを分かち合い、二人で助け合って数十年。深い理解と信頼の絆で結ばれた二人。言葉数少なくても分かり合える呼吸。夫は少々幸せ太りで、妻は痩せ型であか抜けた美しさが残っている。煙草を止めてしまって今ではもう吸わない。魔法瓶に持参した妻の好きなコーヒーを、静かに飲みながら過去の思い出をポツリと語る。そしてこれからの人生のロマンも語り合う。秋のさわやかな風が時折流れる。

  私にはこのような美しい風景が、まるで憧れのように目に浮かんでくる。これはあくまでも理想であり、はかない願いにも似ているのだが。でも決して夢は捨てない…。

撮影2004年 秋