◆灘は日本一の酒所

 神戸・灘区から東灘区、そして西宮、更には伊丹にかけて数多くの清酒大手・中小メーカーが立ち並ぶ。ここは日本一の酒所。当然ここには酒造りに恵まれた幾つもの最高の条件が整っていなければならない。神戸港から阪神間にかけては海岸線が広がり、大きな物を運ぶには船しかなかった時代には、誠に恵まれた地の利であった。更に六甲山脈から流れ着く「宮水」は江戸時代に降った雨が今湧き出でているとか。「日本盛」の社員から聞かされたときは、とても信用出来ない話だと思えた。しかし外国航路の船が赤道を越えても神戸の水は腐らないと昔から聞いている。岩と岩の間を染入るように流れ着く磨きに磨きた抜かれた水。ここに歴史の壮大な水のロマンが生まれてもいいと思えた。

 日本酒の原料はお米である。それも六甲山の裏に広がる「山田錦」というお米は、毎日のご飯の粒より一回り大きく、回りの余分な不純物を削り取る。このことにより純粋なお米の芯のみの良さが生かされる。そして日本酒を造る人の洗練された技術力は、丹波・但馬地方の冬場の豊富な季節労働者と、その中から生まれた酒の味を利き分ける「杜氏」の技にある。

 以上の条件が整った地域が全国に名を馳せた「灘の生一本」の酒なのだ。長い年月を掛けて築き上げられた伝統と信頼によるものである。私はこれまで多くの酒造メーカーの人達と語り合ってきた。それらの話をまとめたのが上記である。戦後の何もない時代に消費者は「お酒を分けて下さい」。メーカーは「分けてあげましょう」。この会話は暫く続いた。しかし時代は絶えず変化している。ビール、ウイスキー、ワイン、更には焼酎の伸びにより、日本酒の衰退は止まることを知らないほど落ち込んでいる。今大変な危機を迎えているのだ。古きよき時代に酔ってはいけない。若者から受け入れられないようでは、未来に生き残ることは有り得ない。頑張れ!日本酒。私の大好きな日本酒。

撮影2004年 夏