◆ にしん御殿の魅力

 子供の頃から母方の父(お爺ちゃん)が神戸中央卸売市場の鮮魚部門に勤めていた関係もあり、嫁いだ娘(母)がいつまでも可愛いのであろう、毎日のように市場から新鮮な魚を自転車に積んで届けてくれた。その間、唯の一度も家に上がってお茶を飲むことなく言葉数少なく帰って行く。そのような人柄のお爺ちゃんであった。魚やカニ、タコにイカ等々。忘れられないのはお湯が一杯入った大鍋に、生きた伊勢海老を入れて直ぐに蓋をする。すると一瞬にして甲羅は変色し、鮮やかな明るい赤となる。口に入りきれない程の大きな身を、かぶりつくように食べた。いま思えば有難く贅沢な食卓であった。

 北海道・小樽に「にしん御殿」なるものがあると聞き訪ねてみることにした。私の子供の頃はそのような恵まれた家庭環境にあっても、大学で東京に行くまでは、ニシンと言う魚を見たこともなければ食べた事もなかった。しかし食べてみて実に美味い魚だと思った。特に子持ちは珍味と思えた。ただ欠点はあまりにも骨が多いので食べるのに一苦労である。外食が殆どの私にとって、メニューの中にニシンがあれば迷わず注文をした。大好物の魚であった。ニシンは北国の魚である。ここ北海道では新鮮な魚介類が豊富であるとのことで楽しみにしていた。しかし私にとっては少し高価で思っていたカニ、いくら、ウニ等、お土産としては買えなかった。久しぶりにニシンが食べられるかも知れない。期待を持って「にしん御殿」を見学。残念ながら時間の関係もあって、レストランには入れず立派な屋敷を見るだけで終わってしまった。

 しゃけの卵は「いくら」。すけそうだらの卵は「たらこ」であり調理して明太子になる。ニシンの卵は「数の子」なのだ。おせち料理に数の子は無くてはならない品になっている。一攫千金という言葉があるが、ここはニシン漁で大金持ちに成った大網元・青山家の別荘である。6年半の歳月をかけて大正12年に完成した大豪邸である。決まって金持ちはその証としてまず大きな家を建てたがる。もっとほかに有効な使い道があると思うのだが。(無いものの僻みなのか)。

撮影2004年 春