◆ 墨田川の春

 「♪〜春のうららの隅田川  上り下りの船人が  櫂のしずくも花と散る  ながめを何にたとうべき」これまで私はこの歌の題名を「隅田川」だとばかり思込んでいた。

 正解は「花」と言うことで滝廉太郎が作曲したとのこと。しかし隅田川と聞けばこの歌が出てくるのである。私が隅田川に架かる「吾妻橋」を訪ねたのは4月9日。正に春うららのポカポカ陽気。今年の東京の桜は例年より少し早めのため、満開の見ごろはすでに過ぎていた。でもあちこちで名残尽きない桜が可愛く咲いていた。

 大学一年の時、柔道部の先輩と同僚がこの橋の近くに住んでおり「本所吾妻橋」という所にあった。この二人の家族から可愛がられよく泊めて頂いた。何よりも嬉しかったのは家庭料理にありつけたことであった。特に朝ごはんの味噌汁に納豆は、今私は東京にいるのだと実感させられた。神戸から出てきて間もない私にはここの地名を聞いて、映画で「大岡越前」「遠山金四郎」等の時代劇に出てくる江戸時代を連想する。そういう意味での歴史を感ずる地域なのである。

 隅田川にはこの橋のほかには有名な勝鬨橋がある。大きな船を通すため中央部が開閉式の跳ね橋となっており、隅田川の最下流で海から見て玄関口となる。名前の由来は明治時代の日露戦争の勝利にちなんだもの。その他、永代橋、両国橋、蔵前橋、駒形橋、言問橋等、交通の大事な役割を担っている。

 世界を見ても日本もそうだが、大都市ともなれば必ずと言っていいほど海か川に面している。これは鉄道も車も飛行機より以前に、先に船が発達したが故であります。東京も大阪も海にも川にも面しており、地の利に恵まれていることがわかる。しかし交通便がいいだけでは情緒が無い。人の心を和ます自然の美しさに加えて、ここ隅田川では毎年夏花火大会が開催されている。1733年からの伝統と聞いて驚くばかりである。悠々として川は流れる。一瞬たりとも止まることなく流れ続けている。わが人生も同じように‥‥。

撮影2004年 春