◆東京タワーからの展望

 僅か2〜3cmのすき間を私は大股でまたいだ。昭和36年10月中学3年生の修学旅行で「東京タワー」に上った時のことである。その前年に世界に誇りうる333mものタワーが東京に誕生ししており、新しい名所となっていた。150mの展望台に着いた時、エレベーターから降りる際に展望台との間に2〜3cmのすき間があり、その間から下がストレートに見えてしまう。僅かな間であっても吸い込まれそうになる恐怖を覚えたのだ。

 あれから45年の歳月が流れ、再び「東京タワー」を訪ねた。私の体は125kgにまで成長し、まるで相撲取りの力士並みになっていた。しかし展望台に着いた時に、大股でエレベーターをまたいで、当時と同じように降りる始末であった。勇んで上がったものの遠くの景色を見るのはそれほどでもなかったが、窓に近づいて真下を見たとき、足がブルッと一瞬震えて後ずさりしてしまった。更に後悔したことは特別展望台(250m)の券を買ってしまっていたのだ。狭いエレベーターで所要時間僅か1分だが、その間外を見る勇気は全くなかった。そして最悪の事態が起こった。何と展望台が揺れているのである。

 阪神大震災をまともに体験した私は足元が揺れると恐怖感を覚え、反射的に体が反応してしまうのである。その後遺症は現代も残っている。係員の平気な態度に気持を落ち着かせつつ、展望を楽しもうと必死で心がけるように努力した。 ここから見える東京は360度の大パノラマであるが、新宿西口を始め皇居に東京湾、新しい高層ビル群の汐留には特に目を引かれた。その他「六本木ヒルズ」に代表されるように超高層ビルはあちこちに建っており、もはや名前も知らないビルが点在している。こうした流れは一層進むものと思われる。そしてやがてはニューヨークのようなビル街に東京の全てが覆われてしまうようにも想像する。東京一極集中化をまざまざと見せ付けられる思いがした。

撮影2004年 春